■【失敗から学ぶ成功する経営】

12.優秀な社員の退職を止められず失敗する

●私が事業を継いだ時は、23歳でしたので、当然全社員が私より
年上でした。二代目が継ぐと多くの企業がそうであるように、私の
会社も次々と番頭を始め社員が辞めていきました。

●創業者に仕えていた社員が創業者がいなくなってやめるのは、二
代目に責任があるというよりも、致し方が無いことだと思います。
もちろん、二代目になってもやめない社員がいる会社もありますが、
それは、二代目の力というよりも、残ろうと思った社員が素晴らし
いことだと思います。多くの社員は、創業者に比べ魅力の少ない二
代目が社長になると同時に退職をしてしまうようです。やはり、子
供にまで仕えていられないという心情もなるのでしょう。

●私の場合は、同時ではないにしろ、2,3年の間に次々と退職し
ていきました。そして、先代から引き続き会社に残ってくれた社員
は結局3名でした。彼ら彼女らは、若くて何も知らない社長も元で
少しでも役立とう、会社の再建に力を貸そうという気概を持った人
達でした。

●しかし、その3人も結局私が会社を整理することを決意する5年
ほど前には全員辞めてしまいました。婦人服小売のノウハウを持っ
た人達でしたが、その退職の意思を私は覆すことができなく、退職
していったのでした。辞めた理由は、それぞれプライベートなこと、
独立してやっていきたいことなど、表向きの理由はありました。し
かし、真の退職理由は、私が無意識的にまたは意識的に彼ら彼女ら
を排除してきたことが原因だと思います。

●アパレルメーカーを起業したり、SPAを開発したりしてきましたが、
仕入100%の専門店をやってきた彼ら彼女らにとっては、ついてい
けないことが多かったのかもしれません。また次々と新しい人材が入
ってきて、もう自分たちの時代は終わった、または役割は終わったと
思ったのかもしれません。新しい事業を行なったりする場合は、実は
今までの人達をどう処遇していくか、というとても大きな難関を越え
る必要があるのです。机上ではいくらでも新規事業開発や優秀な人材
の投入など能書きを言えますが、現実に働いているのは人間であり、
その人達にどうやって理解してもらい、納得してもらいそして協力し
てもらうか、これが一番大変な仕事なのです。企業買収や合併でもこ
れが一番問題です。ある会社では合併して20年経った今でも人事部
は以前のままで2つ部がありますが、このような会社は珍しくはあり
ません。

●アパレルメーカーを創業するにあたっても優秀な人材を招聘しまし
た。それと同時に本業の小売部門でも大手アパレル会社出身の人材を
招聘しました。結果として、3年しか持たず、失敗に終わったわけで
すが、優秀な彼らを使いこなすことができませんでした。それは、一
つは洋服のものづくりについては当時私は素人であり、まったくわか
らなかったので、彼らのいうとおりにやらざるを得ませんでした。言
うとおりにやらせるというマネジメントの方法も必要ですが、ある時
は強く言い聞かせて引っ張っていくことも社長としては必要です。そ
んな場面でもどうしても社長として弱くなってしまい、結局、社長が
いいなりになって経営をしていたということがあります。また、私は
小売出身であるため、小売部門の現場と製造部門が喧嘩を始めたとき
には、どうしても商売は現場第一の原則に立って小売部門を大切にし
てきたということもあったのではないでしょうか。製造部門も彼らと
しては、社長は最後は味方についてくれない、という不信感が少しず
つ生まれてきてしまったのではないでしょうか。もっとうまく人材を
活かすことをしていれば、許すというかアバウトな面を持ったマネジ
メントをしていればギクシャクしなかったのではないか、と思います。
しかし、これは私のキャラクターに属することであり、わかっていて
もなかなか治せない、厳しい箇所でもあります。

●また営業部長も2人、招聘をしました。1人は取引先の紹介、1人
は他の社長からの紹介で来て貰った人達です。最初の1人は今までの
物流を根本から改革して、劇的な効果を上げました。また業績も回復
させ大きな業績を残しました。また次の人も今までのキャリアを活か
して、汗を流してがんばってくれました。とても人柄の温かく下町人
情あふれる人柄でした。

●しかし、それぞれやはり退職してしまうことになりました。その原
因は、やはり私にあります。どうしても、欠点を許すことができずに、
ギリギリその至らぬ点を責めてしまうのです。しかし、人は得手不得
手があります。不得手な部分を毎日責められ、どうにかしろと言われ
れば誰でもいやになってしまいます。不得手な部分を補強するよりも
得手な部分をより伸ばすように指導教育していくことが上に立つ者の
役目でありますが、私にはそれができていませんでした。どうしても、
完璧を求めてしまう。完璧にできないと、全人格を否定するような攻
撃を与えてしまう、そんなとんでもない社長でありました。ですから、
能力ある彼らもだんだん居づらくなってしまい、退職してしまったの
だと思います。

●また、小売業に対する偏見もあったように思います。あまり優秀な
人材は小売・流通業にはいかない、という偏った思考です。また、学
歴による差別意識も無意識にあったのかもしれません。いまでこそ、
流通業も学卒が増えてきていますが、10年以上前は、圧倒的に高卒
が多かったのです。私自身では、表立ってそのような差別は決してし
てきていませんし、口に出したこともありませんが、心の底にある差
別意識を敏感に感じて退職していった社員も多かったのではないか、
と今になってとても反省しております。

●また、人事面では知り合いの紹介である男性に来て貰いました。人
事のトラブルや採用面での気苦労など、私の疲労はその頃ピークとな
ってきており、人事面においてサポートしてくれる人を探していたの
でした。その人は組織の中で長くやってきた人であり、また偉大な常
識者でもありました。いまでも思い出す出来事があります。例によっ
ていざこざがあって社内のトラブルとなり、夜中に店長から私に電話
がありました。いつもの習慣で私は自分自身でどうしようか考え、悩
みましたが、人事の男性が入社していたので、早速彼の自宅に電話を
して相談をしました。夜の1時ごろだったでしょうか。事の顛末を話
しをして、彼の意見を聞こうと思っていました。なにしろすべてそれ
まではすべて私がいろいろな社員から話しを聞いて、判断してまた電
話するというようなことを当たり前としてやっておりました。その時
もそのつもりでいたら、人事の男性は「社長、状況はわかりましたの
で、あとは私でやっておきます。安心してお休みください」と言いま
した。その言葉を聞いて、私は涙が止まりませんでした。ああ、こん
な人材が欲しかったんだ、いい人がわが社に来てくれた、と感動して
涙が止まりませんでした。それから人事については彼に任せるように
なりましたが、やはり彼も退社することとなりました。この原因もす
べて私にあります。やはり、彼の至らない点を許すことができず、完
璧を求めてしまうのでした。

●インターネットなど本格的なネットビジネスに参入するために、大
学の後輩にお願いして入社してもらったこともありました。有名な大
手企業を退職し、私の中小企業に来てくれたのでした。しかし、なか
なかうまくいかず、結局退職してもらうこととなりました。最初にい
た大手企業よりもっと良い職場へ転職できたのが、せめてもの救いで
す。この彼が辞めた理由も私にあります。どうしてもうまくいかなく
なると、許せなくなったり、もっとちゃんとできないのか、と責めて
しまうようになるか、そのエネルギーを使うのも避けてしまい、あま
りコミュニケーションをとらなくなってしまう傾向が私にはあるので
す。

●さすがに、大学の後輩にまで来てもらい、そして退職させてしまっ
た私は自らの未熟さに気づき、少しずつ不出来でも許せるようになっ
てきました。しかし、時すでに遅くたくさんの優秀な社員は退職し、
残った優秀な社員だけではどうしようもない状況になってしまってい
たのでした。

●この私の失敗から学ぶことは、大きくそして深いものがあります。

@社員を許せる度量を持つ
これが、できていれば私のマネジメントもだいぶ違っていたと思いま
す。しかし、狭い了見しかなかった私は、社員に窮屈な思いをずっと
させてきたのだと思います。社長は不得手を見ずに得手に焦点を当て
て生かす、そんな度量が絶対に必要です。そんな心に広さはどうやっ
て持てばいいのでしょうか。それについては、また別な機会に致しま
しょう。

A率直に語る危険さ
率直に語る大切さはいろいろ場面で述べてきましたが、時と場合によ
っては相手を傷つけ、そして不要な気苦労をさせてしまうことになり
ます。上に立つものは言ってはいけないことをグッと飲み込んで、腹
にしまっておく器量も必要なのです。私はそんな器量はなく、思って
いることをドンドン言ってしまっていたのでした。言うほうはスッキ
リストレス解消になりますが、言われた相手はたまったものではあり
ません。そんな相手の気持ちにまで思いやることができる、そんな器
量が社長には必要です。

●今まで人が辞めても自己反省を真にしたことはありませんでした。
反省すればそれは自己否定につながる、そんな思いがありました。人
が辞めても弱音を吐かず、「いや、おれのやり方は間違っていない」
と自らを奮い立たせて頑張ってきました。そんな社長は世の中多いと
思います。そうでなければ、いちいち凹んでいては仕事になりません。
しかし、そんな、自分の気持ちに不誠実な生き方では、真に人材を引
っ張っていくことはできません。避けたくても見たくなくても勇気を
持って「自己反省」をしていかなければ、人材を活かしリードしてい
くことはできないのです。
トップへ
トップへ
戻る
戻る