■【失敗から学ぶ成功する経営】

9.営業より管理を強化して失敗する

●以前からこのメルマガで書いているように、私は二代目として事業
を継ぎました。ですから、継いだ事業である婦人服販売には興味がな
く、二代目だからやらされているという被害者的な発想がいつもどこ
かにあったような気がします。このような気持ちを持つことは、一所
懸命働いている従業員に対してとても失礼なことです。しかし、嘘偽
りの無い私の気持ちです。

●ですから、自然と営業面以外のことに経営の力が入っていくように
なりました。「無駄な販促をやりすぎて失敗する」でも書きましたが、
販売促進にのめり込んでいったのもそれが原因でした。そして、販売
促進以外に人事面や経理面など営業以外のことを主にやり店頭販売・
仕入・商品管理などは部下に任せるように自然となっていきました。
興味がないことでも進んで勉強し関心を持ち、トップとしてタッチし
ていかなければいけないとわかってはいましたが、自分勝手でわがま
まな私はなかなか実行ができませんでした。

●人事面では、就業規則が創業以来まったく修正がされていなく実態
からかけ離れて陳腐化していたので、まずそこから整備しました。会
社としての善悪の判断基準をまず明確にしたのです。次には給与など
の報酬規定を整備しました。それまでは、社長のさじ加減ですべて決
められていたので著しく公平さに欠けていたことと、規定がないので
中途採用の際とても困る事態となりました。店舗の販売員は100%
中途採用でしたので、年中待遇をどうするかで悩むこととなり、その
改善を図るためにも報酬規定を整備しました。

●当然次にはその報酬規定にそれぞれの社員がどこに該当するのかを
決める評価制度を整備しました。この評価制度を整備することは継い
でから約10年間は試行錯誤することとなりました。いろいろな評価
制度を研究し人事コンサルタントの助言も取り入れながら実践してき
ましたが、最後の結論としてはいわゆる大企業をベースとした人事制
度は中小企業には合わないので、社長が自ら自社専用の制度を手間ひ
まかけて作らなければいけないということでした。それはもしかする
と人事の専門家から見ると稚拙であったり不完全であるかもしれませ
んが、社長がこれでよいと思ったならばそれが「ベスト」な制度であ
るということです。

●中小企業では、人材評価は社長の独断でよい、と私は思っています。
大企業を基本的にモデルとした人事制度に惑わされずにオリジナルを
作成してほしいと思います。

●人事制度の整備と同時に研修教育にも力を入れました。特に小売業
の現場では人と話しをするのが好きだけれども、書いたり計算したり
はどうも苦手で、という人が多いので、経営情報のオープン化にとも
ないその指標の意味がわかるようにと社員教育を実施しました。商品
面や接客面については、私自身、キャリアがあって継いだわけではな
いので、直接社員に教えることはできません。ですので、営業面の研
修については幹部社員にやってもらったり外部講師に依頼したりして
実施しました。しかし、もともと商品面は私の弱点であったので、自
然とその面には力が入らなくなり、どうしても管理面の研修教育が増
えていく傾向にありました。

●継いで入社した当初は経理部にいました。これは先代の遺言でもあ
りました。まず経理を経験してお金の流れを把握しろ、ということで
した。ですから、経理とそれに付随する営業管理面にまずは目がいく
こととなりました。経理では当初は手書きで振替伝票を起票するとい
うことをしていました。ですから、月次決算の数字が確定するのは2,
3ヵ月後という状態でした。また、当然POSシステムも導入されて
いませんでしたので、売上の数字もなかなか確定せず、さらには在庫
棚卸も不正確の極みでした。

●このような事態を改善するためにもPOSシステムを導入しました
が、やはりなんと言っても問題は経理自体のOA化です。これは結局
当時の経理部長が退職するまで実現ができませんでした。当時の経理
部長は手書きで起票することで自らの存在意義を見出していたためで
す。中小企業ではこのように守りに入った人が、前に進もうとする会
社の改革の足を引っ張ることが多々あります。どうしても人材の属人
性に依存する傾向のある中小企業ではこのような場合も抵抗勢力を排
除することができずに「まあいいか」で終わってしまいがちです。し
かし、社長が実行したいことが実行できないことは大問題ですし、そ
の原因となることは冷酷かもしれませんが断固として排除していかな
ければいけません。最後に結果責任を取らされて個人財産も失うのは
社長なのです。

●しかし、そうは言っても私の場合はなかなか経理の改革ができず、
その経理部長が自主退職を申し出るまで非効率的な経理処理は続いて
しまいました。それからはパソコン会計を導入し営業のPOSシステ
ムともうまく連動して日次決算までできるようになりました。今思え
ばもっと早く経理の改革を実行していればと悔やまれます。

●会社を継いだ昭和60年には、新しい会社のイメージを社内外に告
知するために、当時ブームであった「CI」を導入しました。縦書き
の名刺をファッション屋らしく横書きになど、目に見えることから組
織の再編・コミュニケーションルールなど社内体制の整備もしました。
それはとても楽しい作業でのめり込んでしまいましたが、このCI活
動が原因で管理面を強化する習癖がついてしまったのかもしれません。

●組織もそれ以来いろいろと改変してきました。組織を改変すること
自体は悪いことではありません。会社は日々成長しておりそれに合わ
せて組織図も変えていくことはとても大切です。しかし、私の場合は、
会社が成長して現状にそぐわなくなったから改変するのではなく、こ
ういうことをしたいそのために組織を変えようという先取り型の組織
改変でした。ですから、うまくいかないとまた元に戻したりしていま
した。先取り型の組織改変もいいのですが、社員からみればどうして
も場当たり的な印象を与えてしまうので、頻繁に改変をするのは考え
物だと私は反省しています。大企業では先取り型の組織改変がありま
すが、中小企業ではやはりそれは無理があるというのが私の結論です。
しかし、どうしても社長は大企業のやり方を真似てみたくなってしま
うものです。

●コミュニケーションのルール作りもしました。会議の議事録もなか
ったのでそれを作成するようにしたり、指示命令系統も整理してうま
く社内情報交換ができるようにしました。会議も必然的に増加しまし
た。本来は営業成績が上がるために会議を行い、コミュニケーション
をしていくものですが、なにか議事録を作ったりコミュニケーション
をすること自体が仕事のようになってしまいました。これでは本末転
倒、実際になんのためにするのか、という素朴な疑問が現場から噴出
してきました

●さすがの私もこれはいけないと思い、会議も減らし、私が動くこと
によってコミュニケーションをとるように心がけました。また、事務
処理の権化である金融機関が多用する「稟議制度」も導入しました。
最初はなにからなにまで稟議を書くということにものすごく抵抗があ
りましたが、半年もすると慣れてその効用が現れ始めました。つまり、
稟議書を回覧することで社長からパートさんまでみんな情報を共有で
きるようになったことです。細かい話ですが、名刺100枚を作るに
も稟議書を書かせて決済後の稟議書を各店にも配布し情報共有しまし
た。このようなことを継続すると会議の性格まで変化し連絡事項や事
後報告事項が激減しました。前向きな話がたくさんできるようになり
ました。

●もう稟議制度を導入されてる会社や金融機関の会社の方々はなにを
寝ぼけたことを言っているのだと思われるかもしれません。しかし、
このレベルでさえできていないのが中小企業の実態だと思います。今
はペーパーレス化が進み社内電子掲示板やEメールで情報共有できる
ようになりましたが、そのようなIT化にほど遠い中小企業では、こ
のようなアナログ作戦も効果があるように思います。

●このような管理面にどうしても力が入ってしまった私は営業面、商
品面に関する私自身の研鑚が乏しく、結果として売上不振時に有効な
手立てを打つことができなかったと思っています。また商品の仕入先
であるメーカーともつながりが薄く、コミュニケーションが少なかっ
たために有益な業界情報が手に入らず失敗をしたと思っています。

●この私の失敗からは以下の教訓があげられると思います

1.社長は、まず社内の誰よりも商品について強くなければいけない

2.社長は、トップセールスでなければいけない

3.人事、経理、総務をいくら強化しても売上は上がらない 商品・
営業8その他2くらいのエネルギー配分でよい

4.管理強化は社長・社員の目が利益に向かなくなる 営業・商品強
化を常に図る

5.大企業のやり方、ビジネス書のやり方をそのまま模倣して自社に
取り入れない

特に、二代目経営者や外部から招聘されてきた社長さん方にご注意い
ただきたいと思います。何度も言いますが、管理で飯は食えません。
自社が何で飯を食っているのかもう一度よく考えて強化するポイント
を押さえてほしいと思います。
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