■【失敗から学ぶ成功する経営】

8.業態開発で失敗する

●私の経営していた会社では、「働く女性の街着(よそ行き着)」
ということで品揃えを行い、主に20代後半から30代の有職女性
をターゲットとして小売を行なってきました。その中でも比較的高
価格な商品を扱い、例えばブラウスで1万5千円前後、スーツで6
万円代という価格帯で勝負してきました。ですから、出店先のファ
ッションビルなどの中ではハイグレードな店舗というイメージをお
客様からもたれていました。

●商品の1点単価が高いため、あなり量は売れません。また高額
商品のため、販売員の接客のトークがうまいかへたかで売れるか売
れないかが決まってしまう面もあります。すなわち、販売員の接客
技術により大きく店舗の売上が左右しまうのです。ですから、優秀
な店長と販売員が揃った店舗は極端な話、何もしなくてもドンドン
売上が上がりました。しかし、高額は商品を売りこなす力のない販
売員がいる店舗はどんなに強力に本社がバックアップしても売上は
急降下で悪化していきました。

●ということは、働く女性が質的に満足する商品、すなわちあまり
他店では扱っていない珍しい生地を使い丁寧な仕立てをしている高
額な商品を売るということは、低価格な商品を売る小売店に比べ売
上絶対額がいかないばかりでなく、販売員の属人的な要素に依存し
なければいけないという、経営的には極めて管理効率が悪いマーチ
ャンダイジングであったと言えます。

●机上の空論では、販売力のある人材を集めて人的資本を充実され
ればよい、となりますが、現実はそんな簡単にはいきません。販売
力のある人材はなかなかいません。多くのチェーン経営をしている
会社では、どこにいっても通用する優秀な店長は全店長の3割にも
満たないというのが現実ではないでしょうか。30店舗経営してい
る会社であれば、10人優秀な店長がいるかいないか、だと思いま
す。

●では、どうしてそのような優秀な販売員は不足しているのでしょ
うか。販売力というのは教えて身に付くものではありません。その
人の持っているセンスに100%依存しています。人と話すのが苦
手で営業のセンスが無い人に営業のイロハを教え教育しても結局営
業マンとしてはダメで伸びないのと同じです。ですから、センスが
ないといけない、それも非凡なセンスです。野球で言えばプロにな
れるくらいの非凡なセンスだ、とも言えるでしょうか。そうなると、
そのような逸材は絶対的な数が少ないということになるのがおわか
りになると思います。

●本当にプロとして通用する販売のセンスを持っている人は、流通
小売業に携わる人材の中でも本当にごく少数なのです。また、その
ような逸材はどの会社も高待遇をしていて手放さないため労働市場
に出てこないのです。つまりどこかの会社にがっちり入り込んでい
るということです。ですから、机上の空論では、他社に差別化でき
る販売力のある人材を確保すればよい、また教育していくことが必
要だ、となりますが、見つけて自社に招聘することはなによりも困
難であり、販売力強化の研修は無駄に終わることが多いのが現状で
す。業歴のある会社であれば、融資でお金を調達するより人材確保
のほうが困難である、というのが実感であろうと思います。

●またそのような販売員は給料も高額になります。ということは、
高額で1点あたりの粗利が高い商品を販売してもらわなければ割り
に合わないということになります。逆に、低価格の商品を扱えば価
格でお客様が買ってくださるので販売力は必要ないということにな
り給料の安い若年層の労働力でも対応できるとなります。では、高
価格の商品を扱い粗利を稼いで給料の安い労働力を確保すればよい、
と机上ではなりますが、先述したように給料の安い労働力では高額
商品はまず売りこなせません。悲しいかなこれが現実です。

●高額な商品を扱う限り、売りこなすことができる給料の高いかつ
絶対数の少ない販売センスのある逸材に頼らざるを得ない構造なわ
けです。私は社長になってからずっとこの人材確保で悩んできてお
り、なんとかこの人材確保の悩みから開放されたいと思っていまし
た。その悩みを解決するのは、マーチャンダイジングを変更し商品
価格帯を下げて新しい小売のスタイルを作り上げること、すなわち
業態開発しかないと思い至りました。

●ちょうど今から4年ほど前は、ファッションのスタイルに大きな
変化があった頃であり、ちょうど良いタイミングだと思い、4店舗
をいままでのマーチャンダイジングを変更して20代前半の若い女
性のカジュアルアップした商品の品揃えにしました。それと同時に
販売員も全員取り替えて新しい店舗としてスタートすることとしま
した。

●商品も雑誌に紹介されているような売れ筋を揃え価格帯も押さえ
販売員も若い女性を配置して万全を期しました。若年層の販売員で
したから、給料など人件費は大幅に削減され目論見どおりでした。
しかし、肝心の売上実績はどうだったでしょうか。
まったく売れませんでした。高額商品を扱っていた時の売上と同じ
か店舗によってはそれ以下に落ち込んでしまいました。商品のライ
ンアップも問題なし、販売員もお客様と同年齢の人を揃えたのにで
す。なぜ失敗してしまったのでしょうか。

●その答えの前に、もう一つ起死回生で新しい業態を開発しました。
先のカジュアルアップの店舗があまりに売れないため、在庫を一掃
する目的でアウトレットショップに業態変更してしまいました。通
常の小売価格の8割引きから9割引きと破格値を設定しました。一
流アパレルメーカーのブランド品のデッドストックも調達できたの
でそれらも同じ割引率にしました。3万円のジャケットが3000
円です。しかし、この小売価格でも粗利は50%確保できるように
仕入先と交渉しました。結局はメーカーも倉庫に眠らせている在庫
品です。最後はこちらの言い値で卸してくれました。しかし今思え
ば業歴30余年という当社の信用看板があったからこそできた荒業
だと思っています。

●そのような高品質な商品が8割引9割引で売り出されて、目ざと
い消費者が黙っているわけがありません。爆発的に売れました。あ
る店舗では新聞の折込チラシを入れて告知したところ、その商業施
設で記録となる行列が早朝からできたりしました。またわずか8坪
の店で月商が1000万円を超えたこともありました。月坪売上が
125万円です。驚異的な売上でした。またある店舗ではレジ1台
でお客様の行列が長くできてしまいクレームが発生したので、慌て
て家電専門店に行ってレジを2台購入し3台のレジで売上を裁いた
こともありました。衣料品としては驚異的な売上を作ることができ
ました。

●お客様はとても賢いです。それだけのお客様がいらっしゃると良
い商品は早い者勝ちとなります。商品の入荷は午前中の10時半頃
に佐川急便などで店舗に到着するのですが、その時間を見計らって
来店され、商品の入ったダンボールが店舗に運び込まれた瞬間に、
お客様がわぁ〜とダンボールに群がり勝手に開梱して商品を取り出
すという異常な事態も発生するようになりました。いままで高額品
を扱いどちらかというとすまして商売をしてきた私にとってこのよ
うな事態は驚きであり、多忙を極めましたが売れるということの楽
しさうれしさを感覚として味わうことができた貴重な経験でもあり
ました。

●しかし、このアウトレット業態もだんだんと売上が下降してきま
した。売れて売れて大変だ、という時期は長くは続かなかったので
す。
それはなぜなのでしょうか?

●先のカジュアルアップした業態で売れなかった原因とアウトレッ
ト業態で売れなかった原因は違います。まず、カジュアルアップし
た業態で売れなかった原因は1つは内装です。商品や販売員は変更
しましたが、店舗の内装については資金がなくまったく変更しませ
んでした。当然店舗名も高額品を扱っていた時と同じ店舗名です。
いくら商品や販売員を変えても内装がそのままだとお客様は新しい
商品を扱った新しい店舗だとわかってくれません。前の高額品を扱
っていた時のイメージがあるためどうしても入店してくれないわけ
です。小売業にとってそれだけ店舗内装の持つ意味は大きいのです。
仮定の話ですが、あの時内装までガラッと変更していたら、また違
う結果が出ていたと思います。2つめの原因は、会社の持っている
文化です。いくら売れ筋の商品を取り揃え販売員も変えたとしても、
高額品を20年以上売ってきた会社です。どうしてもその匂いとい
うか雰囲気がちょっとかっこつけたお高いものになっていたように
思います。そんな閉鎖的な会社の文化を敏感にお客様は感じてとて
も買いづらかったのではと思います。

●アウトレット業態が売れなかったというか売れなくなった原因は
とてもはっきりしています。商品が調達できなくなってしまったの
です。取引メーカーのデッドストックは約4ヶ月で完売してしまい、
あとの商品が手配できませんでした。既存の取引先で無理となると
新規の取引先となりますが、新しく取引を始めた当社にいきなり
「実はうちも処分に困っている在庫があるんですよ」とはメーカー
も言い出しにくくうまく調達ができません。最後は倒産品の商品を
調達する、ということになるのですが、これはもう倒産品専門で扱
っている業者がいてとても我々のような素人が入り込む余地はあり
ません。そんなこんなで商品手配に躓き売上も下降したのでした。
現在、多くのアウトレットショップがアウトレットショップ専用の
商品を開発して店頭陳列をするという本末転倒の名目だけのアウト
レットショップとなっていますが、アウトレットと言う業態事態、
所詮国土が狭い日本では無理な業態であると感じています。

●今回の失敗からの教訓は、
1.新しい業態は自社の文化をよく考え開発すること
2.新業態を既存店舗の場所で行なう場合は前の店舗の「匂い」
を完全に取り去ること
3.企業にとって商品は命、商品の調達については二重三重の
バックアップ体制をとり万全を期すこと
4.企業にとって人材は宝、宝を確保する手間を惜しんではな
らない

是非みなさんには恐れずに新しい業態開発にチャレンジされ成功し
てほしいと願っています。
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