■【失敗から学ぶ成功する経営】

7.固定客のお客様に頼りすぎて失敗する

●商売では、自社で扱う商品の「ファン」をどれだけ増やしていけ
るか、に成長と存亡がかかっているのはみなさんご存知のとおりで
す。その「ファン」をいかにして増やしていくかに知恵を絞り試行
錯誤を繰り返すのが経営であるとも言えます。

●しかし、この「ファン」からご贔屓にしていただくのは結構なの
ですが、「ファン」は「ファン」であり続けると同時に歳も重ねて
いくことになります。人間、歳を重ねるにつれて考え方も変わりま
すし、生活環境も変わります。そして嗜好も大きく変化していき
ます。ですから、「ファン」を一度つかみその「ファン」を大事に
していくためには、商品や品揃えも「ファン」に合わせて好んでも
らえるように変化をさせていかなければなりません。「ファン」と
一緒に歳を重ねていくと言ってもいいかもしれません。

●「ファン」を大切にして、その好みに合うように商品や品揃えを
変化させていくことは、今の売上を確保していく上ではとても大切
なことです。しかし、「ファン」である固定客を大切にしすぎると、
新しい「ご新規」のお客様を増やしていくことがとても難しくなり
ます。なぜなら、固定客の好みに合った品揃えは新鮮さがなくおも
しろくない商品・品揃えにどうしてもなってしまうからです。人間
の好みはどうしても保守的になりがちでなかなか自ら変化を求めよ
うとはしない傾向があるためでしょうか。

●おもしろみのない商品や品揃えでは、新しい価値観を提供するこ
とができません。「ご新規」のお客様を振り向かせるには、その方
が持っている今までの価値観を壊して、「え!」と思わせることが
必要です。そうでなければわざわざ知らない新しい店で買おうとは
思わないからです。いままでのご贔屓の店で買えばいいわけです。
ですから、「ご新規」のお客様に買っていただくには新しい価値観
を提供できる、新鮮かつ革新的な商品や品揃えが絶対に必要となる
わけです。

●ここで、商売人の尽きぬ悩みが生まれます。「ファン」を大切に
していくと売上は安定しまた伸びてもいく。しかし、「ファン」に
頼っていると「ご新規」が増えず「ファン」と一緒に商品・品揃え
が歳をとっていってしまう。そして最後は「ファン」も自然消滅し
売上も0となってしまう。かといって、「ご新規」を増やそうとす
ると「ファン」の好みでない商品・品揃えとなってしまい、安定し
た売上を放棄してしまうことになる・・・いったいどうすればいい
のだろうか?

●このような悩みは商売をしている方なら誰でも持っている悩みで
しょう。この矛盾をどう克服するか、いつ解消するか、で日々悩ん
でいるのではないでしょうか。

●私の場合、15店舗あった時で、1店舗あたり約3000人の
「生き顧客」がありました。「生き顧客」とは1年に1回は店に来
ていただいて買ってくださるお客様のことをそう呼んでいました。
顧客管理をしていた頃は、購入金額や来店回数など詳しく要素別に
ランク付けをしてAランクのお客様とかBランクのお客様とか呼ん
でいましたが、あまり詳しくすることも現場が混乱して百害あって
一理なしでやめてしまいました。

●この「生き顧客」が先ほどからの「固定客」でありました。この
お客様が喜ぶ品揃えをして定期的にフォローしていけば必ず安定し
た売上が確保できます。16年間の実績がそれを語っていると思い
ます。

●「固定客」を見込んだ場合の店の売上予算は、例えば次のように
試算します。

・年間に2,000千円以上購入してくださるお客様 5人 
2,000× 5=10,000千円

・年間に1,000千円以上購入してくださるお客様 20人
1,000×20=20,000千円

・年間に  500千円以上購入してくださるお客様 50人
500×50=25,000千円

・年間に  250千円以上購入してくださるお客様200人
250×200=50,000千円
  
●この場合、見込みの「固定客」の数は275人で試算売上の合計は
105,000千円となります。粗利や賃料など経費構造によって若
干の違いはあるものの、通常の婦人服専門店であればこれで損益分岐
点を超える売上が確保できたことになります。仮に「生き顧客」が
3,000人いた場合は、あと2,725人が1年間で1万円でも買
ってくださればプラス27,250千円の売上が上乗せされます。

●しかし、この場合の「固定客」275人は間違いなくお顔もその方
の趣味もお勤め先もそして収入状況もパッとすぐに思い浮かべること
ができ、さらに言えばたんすの中身が全部把握できるようになってい
なければいけません。親しい友人のような関係になっていなければ、
ここまでの売上を見込むことはできません。しかし、「ファン」を作
ることはこのように売上の大半を確実に見込むことができるので、経
営を安定させる上では重要な戦略となります。

●私の会社では、売上の約6割以上をこの「固定客」「ファン」で稼
いでいました。ですから当然この方々に気に入ってもらえるような商
品を開発し品揃えを実施してきました。当然ですよね。なんといって
も売上の6割を占めているわけですから・・・

●このように「ファン」を大切にしつつ少しずつ「ご新規」も増やす
戦略を立ててやってきましたが、16年で「ファン」も歳をとってし
まいました。例えば「ファン」が当時25歳だったとしましょう。商
売としては、25歳のOLさんが好む品揃えを行ないます。接客する
販売員も同じ価値観を持つ25歳前後を配置することとなります。し
かし16年経つとどうなるでしょうか。25歳だった「ファン」も
41歳になります。ということは41歳のミセス用の商品を品揃えす
るようになり、また販売員も25歳ではジェネレーションギャップが
ありすぎますから40歳前後の販売員を配置することとなります。
「ファン」を大切にすることは売上の安定につながることにはなりま
すが、会社も一緒に歳をとっていってしまうことにもなるのです。

●それでも、「ファン」を大切にしていけば一緒に歳をとっていって
も大丈夫ではないか、と思われる方もいると思います。しかし、一緒
に進むということはリスクも共有するということにもなります。例え
ば、25歳のOLの方が41歳まで順調に出世し収入も上昇していく
ことがみなさん可能でしょうか。悲しいことに多くの方がいろいろな
事情でリタイアされたりして可処分所得に変化がでてきます。またご
家庭の事情も変化します。子供もでき、お金がかかる歳ごろでもあり
ます。可処分所得が増えたとしてもファッションに使えるお金は減少
してしまいます。ファッションに関して言えば、なんといってもたく
さん消費するのは独身のOLさんです。それに比べれば41歳の女性
はどうしてもファッション消費が減少してしまいます。また、引越し
などで遠方に行かれてご来店いただけなくなる方もでてきます。

●このように、「ファン」の自然消滅率を仮説を立てて歩留まりを計
算しその分を「ご新規」で埋め合わせていく、というのが理想の小売
商売です。しかし、これは言うが易く行なうは難し、です。なぜなら、
先述したように「ファン」が喜ぶ品揃えと「ご新規」を引き付ける品
揃えはちょっと違うからです。また経営者自身も現状の売上確保に追
われてどうしても「ファン」に頼った経営をしてしまうからです。よ
ほどの決意がないと「ご新規」を獲得する革新的な品揃えに変更する
ことはできません。

●私の失敗は、16年間「ファン」を中心にした商品開発と品揃えを
実施してきたことです。それにより、安定して売上を継続して確保し
ていくことはできましたが、気がついてみると商品も店も販売員も
(もちろん私も)歳をとり、購買力のある20代のOL向けの品揃え
に変更できなくなっていたのでした。手遅れになるもっと前に少しず
つ変更していけばこのような形で行き詰まることはなかったのではと
悔やまれます。

●この私の失敗からの教訓は、「今の売上確保の手段に安住せず、同
時に新規性を導入せよ」ということです。この「同時に」ということ
がミソです。今までの既成概念を壊して新しい価値観を作るというこ
とはいろいろなビジネス書でも書かれていますし著名な経営者も述べ
ています。まずはそれができなければ経営者の資質がないと言っても
いいでしょう。しかし、経営としてはすべてを壊して新しいことを作
るのはさほど難しいことではありません。さらに高度な経営を目指す
ならば、「既成概念を維持しつつ新しい価値観を導入する」というこ
とです。日々精進している経営者ならばこの難しさがよくお分かりい
ただけると思います。またその必要性もご理解いただけると思います。
私は失敗してしまいましたが、是非ともみなさんにはこの高度な命題
にチャレンジして達成していただきたいと思います。
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