■【失敗から学ぶ成功する経営】

5.無駄な販売促進をやりすぎて失敗する

●私は二代目でありましたし、継いだ事業の婦人服に特段の興味が
あって積極的に継いだというわけはないので、商品の品揃えや仕入
などは社員に任せて、管理面や販売促進に自然と力が入っていきま
した。販売促進では、とても多くのことを実施しました。継いだ当
時は、お買い上げいただいたお客様の連絡先を頂戴し、夏と冬の2
回だけその名簿に載っているお客様に対して優待セールを実施して
いるだけでした。これだけでは、優良顧客の囲い込みはできないと
私は判断しすぐに顧客の組織化を図りました。まだ弱冠24歳、
1984年頃だったと思います。

●ただ名簿をとるだけではダメだと思い、顧客情報カードをまず一
新しました。電話連絡が可能な在宅曜日・時間まで書いていただく
ようにしました。これは、当時から当社の主な顧客はOLが多かっ
たため、なかなかお電話でご来店を促そうとしても不在のことが多
かったからです。そして顧客情報カードにご記入いただくと、会員
カードをお渡ししました。しかし、ただカードをお渡ししてなにも
特典がなければいつも持ち歩いていただけません。そこで、いろい
ろな特典やサービスを考えました。

●1つは、クリーニングサービスです。当社でお買い上げになった
商品に限り店舗までお持ちいただいたら無料でクリーニングをする
というサービスです。当時は、布素材に皮革素材を合わせたような
生地が流行したり新素材が出たりして、お客様からクリーニングで
縮んだというようなトラブルが多く発生していました。それならば、
当社でクリーニングを引き受けて差し上げようとなったわけです。
提携できるこだわりのあるクリーニング店を捜して主旨をお話しク
リーニングをお願いすることまで自分でやりました。2つめに用意
したサービスはエステティックサロンとの提携でした。まだ80年
代のエステサロンは大手2社の独占状態であり、料金も高くなかな
か敷居の高いところでした。その1社と提携して当社のお客様をご
紹介したら、入会金と1回分のエステを無料にしてもらうというサ
ービスでした。3つめに用意したサービスはお誕生日サービスです。
お客様のお誕生日月にご来店いただいた場合は、ランジェリーなど
をプレゼントするというサービスです。

●また月に1回はイベントを開催してダイレクトメールも出してい
ました。春のスプリングコートフェア、春物バーゲン、夏物紹介キ
ャンペーン、夏物処分バーゲン、秋のジャケットフェア、行楽シー
ズンのコーディネイトフェア、冬のコートフェア、冬物一掃バーゲ
ンなど、とにかく息つく暇もなくイベントを開催してお客様をお呼
びしていました。なにかそのようなイベントを開催し続けないとお
客様が離れていってしまうのではないか、という強迫的観念みたい
なものを持っていたように思います。さらには、店頭におけるイベ
ントだけではなく、宝飾フェアと題して、宝飾メーカーと提携して
ホテルの宴会場を借りて宝飾品のご案内をしたりもしました。芸能
人が華を添えたり、最後は会場もベルファーレになったりしていま
した。また、世界メーキャップコンテストで1位になられたメーキ
ャップアーティストの方にお願いして、各店舗でお買い上げになっ
た洋服に合わせた化粧のアドバイスというメーキャップイベントも
数度開催したりしました。体験されたお客様にはとても好評ではあ
りました。

●さらに顧客の固定化を図るべくポイントカードも世間よりはかな
り早い時期に導入しました。これもお客様のご意見を伺うと、機械
で印字したりするポイントカードは貯める楽しみがあまりないとい
うことでしたので、あえて紙製のカードにして裏面に販売員が手で
判子を押すものにしました。これだとあといくつでスタンプが一杯
になるという楽しみがあるのだそうです。しかし、ただポイントを
貯めるだけではお客様のメリットがありません。ポイントが一杯に
なったカードの枚数に応じていろいろなプレゼントを用意しました。
一番多くポイントを集めた方には、オリジナルのバスローブを差し
上げました。これはとても喜んでいただけました。しそれもそのは
ず当然です。1枚数万円もする上等のバスローブだったのですから。
そのほかには、オリジナルのバスタオルや当時アロマテラピーが流
行していたので、アロマテラピーセットなどをプレゼントしていま
した。

●なかなか売上が伸びないので店長会議で何故売れないのかを議論
していた時、ある店長が「お客様のタンスの中が一杯なんじゃない
ですか」と言いました。みんなで、そりゃそうかもしれないタンス
が一杯だったら売れないよね、と大笑いしたことがありました。し
かし、はたと気づき、そのお客様のタンスを空にしたらまた買って
くれるのではないか、と子供じみたことを思いつきました。そして
一度お買い上げになった服をなくすにはリサイクルだ!と思いつき、
リサイクル辞典なるものを本屋で立ち読みして巻末にある名簿から
衣料品のリサイクルをされている方のお名前と連絡先を控えて提携
してほしいとご連絡を差し上げました。まさに突撃アタックです。
幸運なことにその方は快く会ってくれました。あとから知ったので
すが、その方は衣料品のリサイクルではとても有名で実力者でもあ
る方でした。その方とタイアップして、衣料品の回収システムを作
りました。簡単に言うとこのようなシステムです。お客様が不用に
なった衣料品を提携先のリサイクル回収工場へ宅配便などを使って
送っていただきます。この不用になった衣料品は、当社でお買い上
げになった商品に限らず、紳士物でも靴、鞄でもOKというところ
がこのサービスのミソです。そして回収工場へ送った配送伝票を当
社の各店店頭にお持ちいただくと、その配送伝票に記載されている
配送料とプラス千円分の当社商品券をお渡しするというシステムで
す。その商品券を利用していただき、また当店で新品の服を買って
いただこうという販売促進です。とてもお客様には好評で、地元の
ミニコミ紙に取り上げられたり、最終的には日経新聞で紹介され
NHKの夕方のニュースでも放送されるほど反響がありました。そ
の後紳士服の会社や百貨店などが同様のサービスをされたりしまし
たが、私も社員も当社が一番最初に始めたのだという自負はありま
した。しかし、このサービスは多くの方には好評でしたが、一部の
心無い方々によって中止に追い込まれました。それは例えば古着で
はなく雛人形を送ったり、洗っていない下着を送ったり、おそらく
介護している老人が着ていたと思われる着物を汚れたまま送ったり、
古着回収をゴミ捨てと同義と思っている方々の行為でした。また送
っていない配送伝票を勝手に自分で書いて店舗に持ってきて商品券
をもらおうという方々もいました。それは、配送を受託したコンビ
ニなどの受領印がないのでひと目でわかってしまいます。それなの
に、そのようなことがよくありました。これらのために、好評では
ありましたが、回収工場の現場のみなさんにご迷惑をかけたり、店
頭もお客様に対して疑心暗鬼になったりするので、中止としたわけ
です。

●このように、たくさんの販売促進策を実施し、顧客サービスに努
めてきました。どれもこれもアイデアを絞り提携先を探し手間をか
けたものばかりです。またこれ以外にももっと細かいこと、例えば
ダイレクトメールの写真まであれこれ考えてこだわってやってきま
した。
しかし、売上に対する効果はどうだったのでしょうか?果たして売
上を増進することになったのしょうか?これだけの費用をかけてよ
かったのでしょうか?
壮大なる実験と言ってもいいかもしれません。
そんなことをしてきて結果はどうだったのでしょうか。

●私の結論としては、費用と手間をかけた割りには効果はなかった
と思っています。過剰なサービスであったと反省しています。現に
お客様の反応は総じて冷ややかであり、こちらが期待するほどのリ
アクションはありませんでした。特にメーキャップなどは超一流の
方の指導を無料で受けられるということで、こちらは張り切りまし
たが集客はほとんどできませんでした。

●お客様は、店舗に婦人服を買いにいらしています。付随するサー
ビスを期待して来ているわけではありません。自分に置き換えてみ
れば、いくらご飯も味噌汁もお代わり自由とあってもおいしくなけ
れば二度とその店には行きません。それと同じで、お客様が求めて
いるのは自分が欲しい服が「あるか」「ないか」それだけです。そ
れだけで、店を判別していらっしゃいます。その顧客の基本的な動
向をわかろうとせず、外堀だけを綺麗にすることに腐心していた私
は愚か者以外の何物でもありません。小売は商品が命なのです。命
である商品を磨かずにそれ以外に労力を使っていたことは小売商人
失格なのです。

●このような失敗は創業者の方は少ないと思います。なぜなら創業
者の方は命である商品を売ることに苦労されそして成功しているか
らです。ですから商品を磨くことが空気のごとく当たり前として考
えています。しかし、二代目は自分の関心や興味があった商品を受
け継いで商売しているといいうことはあまりありません。ですから、
商品面よりもそれ以外の面にどうしても関心がいってしまい、私の
ような失敗をしてしまうように思います。

●この失敗で学ぶべき点は、商売は商品に始まり商品に終わるとい
うことです。商品を磨かなくしてお客様はついてきません。なぜな
らお客様は商品のファンだからです。お客様が欲しいと思う商品を
提供しつづけていくことができるのか、それをするためには何が
必要で何をすればいいのか、というように常に商品を真中に据えて
方向性や対策を考え、そして実行することが重要なのです。いつも
商品のことだけを考えている、それはとりも直さずお客様のことを
常に考えていることであり、社長も含めて社員全員がそうである会
社は、これからも成長しつづけることができる、真に強い会社であ
ると思います。
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