■【失敗から学ぶ成功する経営】

3.ITに投資しすぎて失敗する。

●最近の経営はITブームです。しかし、一時のなんでもかんでも
導入しないとだめだ、という風潮はおさまり、導入の失敗例を冷静
に分析して自社に必要な技術だけを導入するような傾向にあります。
誠に良いことです。
他社に負けるな、とわけもわからずITを導入するのは論外ですが、
きちんと導入の目的や費用対効果を予測して導入しても失敗してし
まうことがあるのがIT導入の難しいところだと思います。

●私も社長時代にいろいろなITを導入して業務改革や顧客サービ
スを実施してきました。成功したこともあれば失敗したともありま
すが、そんな体験から本質的に何に注意をしてIT導入をすればい
いのか考えてみましょう。

●私が一番大きく情報投資したのは、全店POSシステム導入でした。
この導入までのいきさつについては、このメールマガジンの8号を
ご覧いただければと思います。たいへんなことにはなりましたが、
なんとかPOSシステムを導入し、目標であった日次決算ができるよ
うになりました。またアパレル小売業は商品の入れ替えが激しくそ
のための事務作業が大変なのですが、POSシステムの導入により仕
入伝票、返品伝票の起票作業が大幅に軽減されました。POSシステ
ムの主な目的である売上仕入在庫の正確かつ迅速な把握ができるよ
うになると、今度は顧客情報管理システムに力を注ぎました。相当
額をさらに投資してソフトをカスタマイズし情報管理を行ないまし
た。最大時17店舗ありましたが、その各店で「誰がいつどの店舗
で何をいくら買ったか」をPOSレジ上で表示できるようにしました。
また、複数の抽出条件を入力して顧客リストやタックシールを出力
してDM販促も実施できるようにしました。しかし、顧客情報に基づ
き、仮説を立てて効果があるだろうと確信し実施した販促もなかな
か効果がでないことが多かったように思います。サンクスレターか
ら始まって、関連商品の紹介、コートなど季節商品のご案内、クロ
ーズドセール、オープンセールの開催告知や、各種イベントの案内
などそれこそ無い知恵を絞って、顧客情報を元にみんなでいろいろ
な販促を考え実施しました。しかし、クローズドセールの案内を除
いて今ひとつの結果でありました。

●ある日ある時、一つの結論を出しました。顧客情報を元にあれこ
れ販促を考えるのは、結局売り手の論理の押し付けではないだろう
か。お客様はもっと別な動機でご来店しそしてお買い上げになって
いくのではないか。最初にお買い上げになったお客さまに忘れても
らわないようにDMを打ち続けることは意味があっても、それらのDM
で過大な売上増の期待をしてはいけないのではないか。シャツをお
求めになったからといって、次にはボトムスのご案内を、と考える
のはまさしく売り手の勝手ではないのか。お客さまにとってそんな
ことはどうでもいいことではないのか、などなど。
そのような「仮説」を立てたのち、サンクスレターとクローズドセ
ールの案内以外は顧客情報を元に販促を行なうことを一切やめてし
まいました。そして、それよりも商品の質的充実、店頭接客販売の
強化を実施しました。結果、売上は減るどころか増加することとな
りました。それまでの販促経費が大幅に削減できただけでなく、顧
客情報を細かく分析する作業もなくなり「小売」に徹することがで
きました。ソフトのカスタマイズ費用や膨大なDM販促費用、それに
携わる人件費など多くの授業料を支払った上で学んだことでした。

●ファッション業界は、ファッションという「工業デザイン」の蓄
積がなかなか行なわれていないのが実情です。ちょっとした店でも
年間で600デザイン以上を扱う婦人服では、昨年や一昨年のデザ
インを引っ張り出して検証するということはなかなかできていませ
ん。もちろんそのような会社ばかりではありませんが、悪く言えば
作りっぱなしが多いと思います。ある時、自動車メーカーの方に
「自動車は何百というデザインから最終的に1つのデザインに絞り
込む。そのための集中力と緊張感はものすごいものがある。それに
引き換えファッションはデザインをたくさん作り出すから、1つ1
つにデザインに対する突き詰め方が甘い!」とご指摘されたことが
ありました。ご指摘のような甘さはあると思います。それが、デザ
インデータの蓄積を行なわないということにもつながっているよう
に思います。

●そのようなことではいけないと思い、マッキントッシュのパソコ
ンを3台購入し、さらに画像データベースのソフトとデジタルカメ
ラを購入しました。もちろんすべてリースです。デジタルカメラと
言っても5年くらい前は120万画素で150万円くらいしました。
しかし、洋服の微妙な色を正確にデジタル化するのに妥協はできな
い、などと考えそのような高額なカメラを購入しデータベース化し
ました。服の写真を撮るにも一苦労で時間によって窓から入る太陽
光が変わるのでそれに注意したり、コメントを入力したりと私だけ
でなく数人の社員がつきっきりとなりました。
さらにはそのそのデータベースを元にインターネットで通販を実施
しました。当時はデータベースとWEBを結びつけることは高度な技術
を必要とした時代でかなり高額なソフトを購入しWEB運営会社と共同
で作成しました。

●そこまでしての結果は散々でした。まず、商品の入荷前にデザイ
ンのデータベースを作っていち早く各店舗に回覧しても、実物に慣
れている現場の販売員は今ひとつ反応が良くありません。こちらと
しては、それを元にお得意様に積極的なアプローチをしてほしいと
思っていたのですが、笛吹けど踊らずでした。またインターネット
の通販はもっと悲惨で1点も売れませんでした。靴が1点売れただ
けです。まだインターネットがやっと世間に知られるようになった
頃で時期早尚だったのでしょうか。唯一の救いはある有名な超一流
企業から「とてもよくできたホームページなので、社内の研修用に
使用させてほしい」と依頼があったことぐらいです。

●さらには、全店舗にテレビ電話を導入しました。まだあまり知ら
れていなかったISDNに会社の回線を全部変えて、北は青森から西は
鈴鹿までを結びました。テレビ電話は当時で1台60万円もしまし
た。これを20台導入しました。導入した理由はこんなことです。
ファッションは色やデザインを言葉で言い表すとどうしてもうまく
伝えられないことがあります。例えば店舗間でお客様が欲しい商品
を電話でやりとりして、商品を移動させたりしますが、言葉の言い
方受け取り方を誤り、違う商品が移動してしまうことがあります。
そうなるとお客様にお約束していた日時に商品をお渡しできず大変
なご迷惑をお掛けしてしまうことになります。また、店頭にお客様
がいらした時に、専門的な質問の場合、本社にいるオリジナル商品
の開発スタッフが、テレビ電話で回答できたら、良い顧客サービス
になるのではないか、とも考えました。また、社内的には電話では
ノンハーバルなコミュニケーションができず、真意がうまくわから
ないことがあります。これは店舗が各地に離れていて頻繁に店舗巡
回ができないチェーン経営では、かなりのデメリットとなるので、
テレビ電話を導入してお互い顔を見ながら会話をするようにしたい
ということもありました。この機器は4箇所を同時に映像表示しな
がら会話ができるというものだったので、遠方の店舗はテレビ電話
で店長会議に参加したりしました。

●導入の結果はどうだったのでしょうか。それなりに社員は使いこ
なしていましたが、たかだか17店舗くらいの会社でここまでのこ
とをする必要があったのでしょうか?
とても疑問です。効果に比べてその投資はとても多額であったと今
になって思っています。

●ITの導入は、経営者の、「導入をしないと乗り遅れるかもしれな
いという心理」「ちょっと儲かっていると何か最先端のことをした
くなってしまう心理」「効率化をしなければいけないという強迫的
観念を持ってしまう心理」そんな心の動きも作用して、視野狭窄に
なり失敗してしまうことが多いように思います。
では、経営者として実務的にはどのようなことに注意すればいいの
でしょうか?

1.先進性、拡張性よりもまず安定性を重視すること
会社の業務で使いこなすわけですから、いくら最先端の技術でもま
た拡張性がどんなにあっても、頻繁にエンストしていては仕事にな
りません。導入する時は、自社と同じくらいの規模の会社が導入し
て実際に成功しているのかどうか、バグはないのか、アフターフォ
ローは万全かなどセールスマンのトークに惑わされずに冷静に判断
しなければいけません。

2.逃げないコンピューター会社を選ぶ
コンピューターも機械ですから壊れます。ソフトも時々エラーが出
たりします。このようなことをきちんと誠実に対応し処理してくれ
るコンピューター会社を選択することがとても大切です。私のリー
スの検収で失敗した例ではありませんが、選択を誤るととても大き
な損害を被ります。何を基準に選ぶかはとても難しいことでそのた
めのコンサルティングがあるほどです。お金がかからなくて一番よ
いのは知り合いの評判を聞いて紹介してもらうことでしょう。知り
合いのところで実績もあるのでまずは安心ですね。逃げない会社を
選ぶ、ビジネスパートナーを選択する上で一番重要なことかもしれ
ません。


3.社内の現場の声を聞く
私の失敗のように社長や本社スタッフが経営戦略上とても必要だと
感じて導入をしても、現場ではそれほど必要に迫られてはいないこ
とがあります。もっとそれ以外にしてほしいことがあるかもしれま
せん。そうなると導入することは経営への求心力を弱めることとな
り、導入しないほうが良かったということになってしまいます。会
社の本社であれこれ考えたことは、必ず実行する前に現場に聞いて
みること、そして導入に際しては現場も巻き込んでいくことがとて
も重要です。もちろん、現場から意見を吸い上げて導入を図ること
が一番よいことはみなさんがご承知のとおりです。

4.特に中小企業では、出遅れるくらいでちょうど良い
最先端の技術はまだまだ安定していなかったり、その後トレンドが
急速に変化してせっかく導入したのに使い物にならなくなってしま
うことがあります。私の場合はインターネット通販がそうでした。
その後インターネット通販は急速に市場が伸びましたが、そのよう
に市場がある程度大きくなってから参入したほうが、先達たちの良
いところ悪いところが学べて結果として少ない投資ですみます。特
に中小企業では、オピニオンリーダーとして踏ん張るのは体力がな
さすぎます。「人より先にやらないと後からでは遅すぎる」という
のは経営者の思い込みに過ぎません。ちょっと出遅れても充分間に
合います。ちょっと待ってまわりを偵察してからにするくらいの感
じでよいと思います。
また、アイデアマンの社長ほど気をつけないといけません。いろい
ろ思いついて実行してみたくなるでしょうが、しばらくは静観して
いたほうが、失敗は少なくてすみます。これも先の「人の先にやら
ねば」という思い込みがそうさせている面もあります。アイデアが
豊富なのはとても良いことです。ただ、実行するのは一息ついてか
らにして、その間は湧き出るアイデアを温め改良することをされて
はいかがでしょうか。
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