■【失敗から学ぶ成功する経営】

2.関連会社を作って失敗する。

●私は、28歳の時、今から12年前にアパレル会社と広告代理店の
2社を創業しました。アパレルを設立したのは、当時は100%仕入
商品を小売販売していたためどうしてもオリジナル商品が欲しかった
からです。100%仕入商品の小売業ほど情けないものはなく、
メーカーがいくら我々小売に頭を下げて売り込んできても、彼らがそ
の気になって商品を引き上げたら小売はその日から店頭から商品が消
え売上が0です。だから、ここぞという局面ではいつも小売側が涙を
飲むことになります。またオリジナル商品がないと小売の命である
マーチャンダイジングにおいてメーカーに主導権を握られ、小売が考
える自由な商品構成を実施して顧客への効果的な販売訴求ができない
というデメリットがあります。私自身、大学卒業後の進路としてメー
カーを志望していたのですが、生来、商品を右から左へ流して利鞘を
儲けるなど論外だ、などという偏った考えをもっていたので、どうし
ても自社のオリジナルブランドにこだわったということもあります。

●アパレルの会社については、社長となり経営を切り盛りしましたが、
広告代理店の会社は、友人を社長にして私は大株主となり経営をまか
せるかたちとなりました。なぜなら、広告代理店の事業について当時
の私は素人であり、業界に長くいる友人のほうが詳しいため、全面的
にまかせたほうが収益が効率的に上がると考えたからです。
創業に必要な人材に関しては、アパレル会社については大手メーカー
のデザイナーを説得して招聘し、生産管理やパタンナーなどはそのデ
ザイナー息の合う人達を集めてもらいました。広告代理店のほうは、
社長である友人にすべてをまかせて人材をそろえました。

●2社の事務所ですが、家賃など固定費はなるべく節約しようという
ことで東京の広尾に共同で4Kのマンションを借りました。1部屋が
アパレル会社、1部屋が広告代理店、1部屋が3社の共同の会議室、
もう1部屋が応接室として使用しました。

●このような経緯で本業の小売業とは別に関連会社を作って新しい
事業を始めました。初めのうちはうまくいっていましたが、3年ほど
するとうまくいかなくなってきました。本業も含めた3社ともです。
なぜうまくいかなくなってしまったのでしょうか?その原因としては
以下のことが考えられます。

1.アパレルのほうは小売と製造部門が売れない理由を互いになすり
あって社内営業が始まってしまった。

2.広告代理店のほうは社長経験のまったくない友人に経営のすべて
をまかせてしまったので暴走を止めることができなかった。忠告すれ
ば煙たがられて結果として対立してしまった。

3.社長である私のエネルギーが3分割されてしまいされてしまい、
一番の収益源である本業がおろそかになってしまい、結果としてすべ
てがガタガタになってしまった。

失敗した主な原因はこの3つになると思います。

●1.は、本業の小売側はお客様がほしがるような商品が出来上がって
こないと文句をいい、アパレルの製造側は小売側の販売方法が悪い、
商品のよさを説明しきれていない、と文句をいい、お互いに売れない
責任を転嫁してしまったりしました。そして、お互いに社内の相手を
説得することに大きなエネルギーを使うという、いわゆる「社内営業」
をしてしまうという事態になってしまいました。その結果、売れ残りの
在庫が何千万円と積みあがり、わずか3年でアパレル会社を清算せざる
を得なくなりました。しかし、このようなことは会社経営ではよくある
ことで、典型的なのが、技術部と営業部の対立などが好例でしょう。
解決としては、顧客の視点に立ってお互いお客様第一でもう一度考え直
そうという方法があります。しかし、この問題におけるアパレル特有の
難しさは、お客様にとって欲しい服とは?のイメージが各人それぞれ頭
の中で違うということです。最後は感性が勝負の業界なので、どうして
もその感性を言葉に置き換えるところでデザイン部門と販売部門とです
れ違いが生じてしまうのです。
わずか3年でアパレル会社は清算することとなりましたが、その後はこの
経験を活かして、デザインは本業である小売会社の社内でつくり、
パターンや素材手配、工場への生産管理などそのあとの一切の業務はアウ
トソーシングしました。その結果、以前であれば納期遅れなども同じグル
ープ会社なので最後はまあしかたがないか、となっていたことが、アウト
ソーシングしたためペナルティを課したりし受託会社もそれを避けるため
に真剣に取り組むようになり、お互いが相乗効果でよくなっていきました。
その結果、年間粗利で65%以上確保できるようになり、とても儲けるこ
とができました。しかし、アパレル会社で作った負債、特に私個人が貸し
付けた金額までは帳消しにできるほどは儲けることができませんでした。

●2.は私がまったくわからない業界であるということで、全面的にまか
せてしまったことが間違いであったと思います。また、友人も優秀ではあ
りましたが、経営者としての経験はなく、そばに口うるさく注進する人材
が必要であったにものかかわらず、私がその役目を放棄していたこともい
けないことでした。そのあたりが友人どうしで共同経営すると曖昧になっ
てしまう部分であり、親しすぎると却ってキチンと物が言えなくなってし
まったり、またキチンと言うとお互い感情的になってしまったりするとい
うことになってしまいがちです。共同経営の難しさは、お互いの「間」の
取り方であり、その「間」が取れない間柄では共同経営をしないほうが良
いと思います。
このケースの後日談は、私と友人の社長は喧嘩別れをして、彼は辞職し別
に会社を作ってしまいました。もぬけの殻となった広告代理店の会社はそ
の後どうしようもなく、結局清算してしまいました。

●3.は、3社も経営する能力のない私が、それをしてしまったが故の失
敗ということです。能力のある社長であれば、関連会社をたくさん作って
もうまくコントロールして経営をするはずです。今回の失敗の一番の原因
はここにあると言っても良いでしょう。しかし、悲しいかな、その時はベ
ストを尽くしていて決してダメにしようと思ってはいないわけでして、結
果論としてやっと自分の至らなさがわかるということになるわけです。も
っと早く自分の能力を見極めていれば、大きな損害を公私ともに与えるこ
となくすんでいたと思います。つくづく社長は己の力の程を知ることが大
切だと思います。

●では、子会社や関連会社などを設立して新規事業を始める場合、どのよ
うなことに注意すればいいのでしょうか。

1.【本業と関連のある新規事業を始める場合は関連会社を設立して始め
る前に、既存の取引先と提携したり、アウトソーシングしたりして実現で
きないか、再度検討してみる。】
新規事業は、本業に関連がある事業にしたほうが、リスクが少なく成功率
も高いことは周知の事実です。そのため、本業の前処理の事業や後処理の
事業などを関連会社を作って行なうということは一般的によく行なわれて
います。しかし、リスクを少なくしたからといって、必ずしも成功すると
は限りません。このような垂直型の新規事業を行なう場合は、まず既存の
取引先と提携することにより、効果が上げられないかを検討することをお
勧めします。また私が行なったようにアウトソーシングする方法もありま
す。このように外部の手を借りることは、トラブルになってもお互いビジ
ネスとして割り切って考えることができて、最終的には金銭で決着ができ
る、という大きなメリットがあります。関連会社だとどうしても責任の所
在が曖昧になって、結局原因不明で終わってしまうことが多いように感じ
ます。自社でやるよりも他社の力を借りることは、最近ではアウトソーシ
ングが盛んになってきて違和感はないにしろ、好調時、社長は天狗になっ
て何でも自前でやってしまおうという野心が出てきがちですから、是非気
をつけてください。

2.【共同経営をする場合は、お互いの職務範囲、責任範囲、収益の分配
方法、万が一の場合の負うべき範囲などを明文化して文書で取り交わして
おく】
共同経営では、違う価値観同士の人間が同じ経営をするわけですから、
トラブルが起きるのが普通です。ですから、そのようなトラブルが起きて
もキチンと処理できるように、共同経営を始める前に上記のような内容に
ついて、膝をつめて話し合い必要が絶対にあります。共同で会社を興す時
は、それどころではなく忙しいとは思いますが、必ずそのような時間を充
分にとることをお勧めします。そんなこと、今決めなくてもいいじゃない
か、と思われるかもしれませんが、これを省略すると後でとても後悔する
ことになります。必ず実行するようにしてください。

3.【関連会社を作ることはは社長の仕事が倍以上に増えることになる。
自分に果たしてそれができるのか、自分をサポートしてくれる番頭の体制
が整っているのか、もう一度点検する】
本業では飽き足らず、別会社を作ってその社長になりたい、とか、本業が
好調で儲けが出ているので新規投資として新しく事業を始めたいと思うの
は、社長であれば誰でも思うものです。しかし、今一度、自分にその器量
があるのか、見直してほしいと思います。その器量とは、たくさんの会社
を経営するタフなエネルギーを持っているかということだけではなく、そ
れぞれの会社に、信頼できて決して逃げない有能な番頭を使いこなすだけ
の力が己にあるか、ということです。組織が大きくなったり、関連会社が
増えてくれば増えてくるほど社長の目は末端まで届かなくなります。その
ような時、何を頼りに経営判断をすればいいのでしょうか。それは信頼で
きる番頭の意見です。ですから、そのような有能な番頭がいなかったり、
どうも自分は人望があまりない社長だと思えたなら、絶対にそれ以上会社
を増やしてはいけません。しかし、なかなかそれは自分ではわからりませ
んし、またわかったとしても認めたくはありません。しかし、自分の能力
をキチンと把握できない社長は最後に絶対に失敗します。
自分自身を理解するには、第三者の力がどうしても必要です。それもアド
バイスやコンサルティングをする第三者というよりも、自分自身の有り様
に気づかせてくれる、そんなカウンセリングマインドを持った第三者が必
要です。私が常日頃、社長が失敗をしないためにはカウンセリングが必要
だ、と申し上げている理由もここにあります。カウンセリングを利用する
かは別としても、どうか、自分自身をよく理解し失敗をしないでいただき
たいと思います。

関連会社を作って失敗しない方法はこれ以外にもあると思います。ここで
は、私の失敗を元に述べてみましたが、これを機に新規事業を考えている
皆さんが、少しでも「止まって見る」ことができるのであれば幸いです。
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