「お金を借りすぎて失敗しました」その1

先週までは私のリース契約の失敗についてお話した。
とにかくリース契約は契約してしまったら、こちらに不利なことが
多いので充分に検討され注意を払って契約していただきたいと思う。
さて今号からは、銀行に関する私の失敗から「ツボ」を押さえて見た
い。

■銀行とのついあいの中では、実は失敗と思えることは数少ない。
結果的には借り入れをしすぎて返済に困ったということだが、信頼
関係という点についてはうまくいっていたように思う。それだからこ
そ営業停止をした時、どの金融機関も慌ててその収拾に大変だった。
それだけ信用して戴いていた、ということだろう。

■そんな長年かけて築き上げた信頼関係の中での「失敗」は銀行の勧
めるままにどんどん借金を増やしてしまったことだ。
以前に書いたように店舗を出すには多額の資金が必要だ。大手のデベ
ロッパーだと保証金、敷金、テナント負担共用部分工事費、自店の
内装費、そして商品店頭在庫資金も入れれば総額で5千万円は必要だ。
業種によって違いはあるが、アパレルでこれだけの資金を自己資金で
賄うのはかなり難しい。
不足資金は、自己資金や直接金融が無理な以上、借り入れ調達するか
または出店そのものを諦めるしかない。私の場合は小売業は店舗面積
を拡大しなければ利益も拡大しないと思い込んでいたのと(これはあ
る意味では今でも正しい)自分自身の功名心が強かったのでドンドン
出店する方針をとってしまい、結果として多額の借金を背負い込んで
しまった。

■銀行も、事業に勢いがあってかつ黒字の会社には貸したくてしよう
がない。私の会社は黒字で経常利益3%を維持していたので、ドン
ドン貸してくれた。

「いや〜社長、すごいですね。ドンドン店を出して儲けてください。
伸びている会社を応援するのが我々の仕事ですから。お金が要る時は
いつでも言ってください。すぐにご用意します。」

こんな言葉にホイホイと乗ってしまい店を出す度に借金を重ねていった。

■店を出してその月から利益が出れば、問題は「とりあえず」ないが
そう簡単に利益は出ない。単価の低い買いやすい商品なら、オープン景
気で大きな売上を作ったままその水準をキープして、早期に黒字化が可
能であるが当社はスーツで6万円台ブラウスで1万5千円が平均上代であっ
たので、とにかく固定顧客を作るのに時間がかかった。オープンでは
デベロッパーの開業共同販促のほか自社でも独自に販促し集客を図るの
で相当数の集客ができる。集客しておいて、店頭ではサービス品をドカ
ンと陳列するので、いわゆる「オープン景気」で売上は初日にまずヤマ
が来る。しかし、店頭商品をいつまでも置いておくと店舗グレードが落
ちるので、少しずつ引っ込めて「本来売りたい商品」を前面に出して
「優良顧客」を囲い込む作戦に切り替える。

ここからが勝つか負けるかの分かれ道で、優良固定客がついて売上が徐々
に伸びてくればいいのだが、仮に市場予測を誤り、思っていたほど
「良い客」がいなかった場合は悲惨なことになる。

借入5千万円を5年で返済するとなると元金で月約84万円プラス赤字
金額が資金繰りを圧迫するようになる。その店単独の経常利益で年間
1千万円を計上して資金繰りがトントンという勘定だ。出店の失敗が3
店舗あったとしたら合計3千万円の元金返済が既存店に重くのしかかる。
赤字による資金不足も含めて、とても支えきれるものではない。こんな
子供でもできる計算がわからなかったのか!と問われれば、わかっては
いたし予想PLももちろん作成していた。なぜなら融資申込の時、当然
そのあたりの資料は要求されるし、店舗業績の見通しをきちんと把握す
る上でも必要であるからだ。

では、なぜそんなにも借入金のみで出店を続けるという失敗をしたのか?
それは以前のこのメルマガで書いたように私の新規事業のセンスがなか
ったことと、銀行に勧められるままに気分が良くなって借入を増やして
しまったことだ。
バブルで私はまったく株などの投資を行なわず、バブルの後遺症とは無縁
であったが、それをいいことに有頂天になって自ら事業を拡大し自らバブ
ルを作り、そしてはじけてしまったのだ。その点ではバブルで失敗した社
長達と本質的にはまったく同じ失敗であると認識している。

■それでもある銀行の支店長は出店を借入やリースで行なうやり方に警鐘
を嗚らしてくれていた。今思えば良い人だったと思うし忠告をきちんと聞
いておくべきであった。しかしイケイケドンドンの状態の私は耳を傾ける
こともなく、「今は攻める時だ」などど言って、結果として会社に大きな
損害を与えてしまった。

■今号では少し前置きみたいな話になってしまたったが、次号からこれか
らの金融機関との付き合い方やなぜ借入過多が経営や資金繰りを圧迫する
のかを今号の失敗から導いてお話したいと思う。
決算書がちゃんと読め、資金繰りも自分でやって、銀行ともいつも適切な
交渉をしている社長さんにはしばらく退屈な話となると思うが、世の中、
決算書がきちんと読め、自分で銀行交渉している社長は、実は本当に少数
なので、いましばらくお付き合いいただきたい。
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