失敗の理由その2
Γ無理な出店を重ねて失敗しました」

(創刊号・3.20号・3.23号・3.30号・4.06号をまだ読んでいない方は
創刊号から是非ご覧くださいhttp://www.alfalfa-c.com/bn.htm)

■23歳の時に父の作った会社を継いだ時は9店舗であった。そして
昨年1月に営業停止した時は6店舗であった。その間最大で15店舗
まで広がった。まずはその変遷を見ていただきたい。

昭和60年 9店舗
昭和61年 8店舗
平成元年 10店舗
平成7年 15店舗
平成12年 6店舗

結局最後の6店舗は先代が作った6店舗のみとなり、私が手がけた店舗
はすべて退店することとなった。

■次に出店のために投資した金額及び撤退のための金額を見ていただき
たい。

出店のための1店舗あたりの投資額 約5000万円
6店舗増 5000万円×6=3億円
退店のための1店舗あたりの損失額 約3000万円
9店舗減 3000万円×9=2億7000万円

合計5億7000万円
先代から引き継いで、これだけのお金をドブに捨ててきた勘定になる。

店舗を撤退するにもお金はかかる。主に現状回復費や期限前賃貸借契約解
約の違約金、従業員を他店に異動できない場合の解雇予告手当などの費用
である。お金がないと撤退もできずダラダラと営業を続けて悲惨な結末を
迎えることとなる。赤字を垂れ流して最後は人に迷惑かけてかまわないと
いう方はいざ知らず、撤退も判断を誤ると大きな損失を会社に与えること
になるのである。
これだけのお金をかけて見合う収益が上がればなにも問題はない。しかし
ことはそう簡単にはいかない。

■ある有名な居酒屋チエーンの社長は出店の成功率は野球と同じく出店した
うち4割が黒字で当たり店舗、あとは矢敗ばかりですよと言っていた。正
直な感想だと思う。それほど店舗の出店というのは予想していた以外のこ
とが次々と起こり計画どおりにはいかない。そうは言ってもし私の場合は
全敗である。まったく話にならないほど能なしだ。けれども失敗しようと
して出店したり赤字でもいいやと出店する経営者は一人としていない。
新規事業を行なう場合、経営者の誰もが、その時は必ずうまくいくと確信
しているところに経営の恐さがある。今考えれば無理な出店と思えること
も、当時の私は成功の確信を持って決断してしまった。
その失敗の原因は次の通りあげられると思う。

1.売上・収益の見通しの甘さ
2.人材調達の見通しの甘さ
3.オペレーション能力の見通しの甘さ
4.撤退コストの見通しの甘さ
5.ライバルとの競争

■2.は店舗という器はお金があればいくらでも作れるが、人材はすぐに育
たないし会社の都合で良い人材ばかりを採用することもできないということ
である。事業拡大は人材の成長スピードに合わせないと後々の大失敗につな
がる。急成長の会社が躍り場にさしかかり下降する原因は、ほとんど人材の
質が成長スピードに追いついていないためである。経営者としては、乗って
いる時に、また銀行がお全を貸してくれるうちに事業拡大をしたくなるもの
だ。しかしまずは人材の成長プログラムを考え、人材の成長度合に合わせて
事業を拡大をすることが重要だ。決して功をあせってはいけない。しかし、
これがなかなかできないのだ。だから失敗する。はやる気持ちを押さえて人
材の質の向上のためのプログラムを是非早急に実施していただきたい。
ところで、何故、経営者は功をあせってしまうのか?それは創刊号から触れ
た経営の本質論となる。まだご覧になっていない方はバックナンバーを是非
ご覧いただきたい。

■3.は結局小売業はドミナント出店しなければ、効率が下がるということ
である。最近では教科書にも書いていないような基本的なことだ。しかし私
はこれを守らずに失敗した。それはデベロッパーの都合のままに出店を重ね
てしまったことにある。私自身が大家と店子という概念を捨てることができ
ず、はっきり自己主張しないできてしまったからに過ぎない。もっと主体性
を持ち、中小企業でも自信を持って出店の判断をすればよかったのだろう。
これはメーカーと下請け会社との関係に似ていると思う。昔ながらの流れで
どうしてもこちらの立場をうまく説明できない。これ自体、経営者として失
格であるが、私自身この部分は最後まで修正できなかった。
地域的に散在している私の出店の仕方は同業の社長さんのみなさんに何度
も注意されたが半ば意地になって無茶な出店を繰り返した。決して意地にな
らず人の忠苦に耳を傾ける。これもツボの1つだが当事者になるとなかなか
これができない。皆さんお願いだから、自分の力を過信せず、厳しい言葉に
耳を傾けてほしい。あとで後悔してすべてを失うのはあなた自身なのだから・・・

■4.についてだが、これから出店しようと張り切っている時に撤退コストを
考えるのは、精神的にかなりしんどい。特に最近ではイメージトレーニング
が重要視され、経営者でも「成功するんだ!」と自己暗示をかけるようにな
った。だからよけい、マイナス状況をイメージするのは抵抗がある。
撤退すると、まあこれくらい損するな、というレベルしか考えない。しかし
目標の何%下回ったら営業損失としてどれくらいの金額が計上されるのか。
どれくらいの期間損失が続いたら撤退するのか、その時のバランスシートは
どうなるのか、予想バランスシートを作成し、最悪のシナリオも新規事業計
画の1つとしてとして当初から考えていかなければいけない。
事業拡大や新規事業で大切なのは、損益ベースで赤字を出さないということ
と最悪のシナリオを作成する場合、必ずバランスシートも作成するというこ
とだ。赤字については、「事業の立ち上げ時は当分赤字だよ」とか「今は赤
字です」と堂々と言う経営者が最近多い。赤字は経営者として失格だ。
そこではなにも言い訳はできない。黒字にできなければ経営者を即刻やめた
ほうがいい。赤字をダラダラ垂れ流している経営者はそのあとどういう事態
がくるのかわかっていない。もっといえば赤字は会社にとってどういう状況
なのか、わかっていない無能な経営者だ。黒字化できなければ即刻撤退・退
陣するなど自らに負荷をかけないといけない。
また撤退すると決めていても、仮にそうなった時会社がどういうバランスシ
ートになるか把握してない経営者が多い。赤字の事業をやめたんだから、と
りあえず資金の流出も止まってまあいいんじゃないか、という感じだ。それ
はそのとおりだが、それまでの赤字が会社の財務内容にどういう影響を与え
るか、その時になって慌てるのではなく予め計画しておかなければいけない。
これは、経営ハウツー本にも書かれている常識的なことであるし、コンサル
タントもよく言うアドバイスだ。しかし、それでも尚ここで触れたのは、
最悪のシナリオを絶対に作る必要があると私自身が痛感しているからに他な
らない。外部の人にそう言われても、推進エンジンである経営者はなかなか
実行できないのが、この最悪のシナリオ作りだ。しかし最悪のシナリオを作
っておけば撤退の時期を見誤らなくてすむ。計画どおり粛々と撤退すること
ができる。もうちょっと頑張れば黒字になるんじゃないか、という未練も断
ち切れる。だからなにか新しいことをやる時には絶対に最悪のシナリオを作
ってほしい。私からの切なる願いだ。

■5.についてはまた別の機会に触れたいと思う。

ここまで、3つの原因について考えてみたが、実は一番問題なのは、1の売
上・収益の見通しだ。何故これが問題なのか?次号では新規事業における売
上や収益の見通しについてみなさんと一緒に考えてみたい。
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