■音楽と経営 その4

●経営と音楽を語る場合,私の場合は,プレーヤーの視点で考えて
みたい。どうも,私はいわゆる音楽評論が苦手であるし,そんなに
音楽知識が詳しいわけでもない。
音楽は,絶対プレーヤーになったほうがおもしろい。絶対と言い切
れる。
そんなこと言われても何もできないし。。。としり込みすることな
かれ!
時間さえかければ,必ず弾けるようになる。人前で披露できるまで
になるものである。

●指揮を習っていた時,常に注意されていたことがある。

「もう一人の自分を持て!」

指揮者は,舞台の演奏者と観客を結びつける接着剤だ。
本番で,指揮者が情熱を持って棒を振らなければ,演奏者は乗って
こないし,故に観客を魅了し感動を与えることはできない。
誰よりも,その楽曲に対して深い読みを行い,作曲者の表現したい
意図を掴み,さらに増幅させて熱く棒を振らなくてはいけない。
この胸の熱さが,舞台と客席を一体化させ感動の嵐を呼ぶのだ。

●しかし,指揮者が熱く振れば振るほど,まずいことが現実には起
きる。
テンポが速くなるのだ。
楽曲にのって,熱中して振ると,指揮者の心拍数は当然上昇する。
心拍数が上昇すると,指揮者はインテンポ(同じテンポということ)
で振っているつもりでも棒は速くなり,どんどんテンポは速くなる。
テンポが速くなると,作曲家が指示しているテンポではなくなり,
それは別の曲になってしまう。演奏者も難しいパッセージは大変
弾きにくくなってしまう。

●だから,指揮者は,熱くのめり込み奏者と観客を巻き込むと同時
に,そんなふうに熱くなっている自分を冷静に見て,ちょっとテン
ポが速いぞ,リズムが合わなくなってきているぞ,と「修正」する
もう一人の自分を持つことが,必要なのだ。

●冷静な自分だけだと,当然演奏は冷めた味気ないものとなり,
観客も感動などしない。当たり前のことだ。
しかし,熱くなるだけの自分でも音楽表現としてはダメなのだ。
熱くなり,そしてそれを見つめる冷静な自分・・・・
そんな二人の自分が必要であり。指揮者に求められる資質なのであ
る。

●この資質は,企業経営者にも求められる能力だと思う。
熱く今の事業の建て直しに没頭しなければ,従業員もついてこない。
取引先も協力してくれない。情熱のない経営者など何も動かすこと
はできない。
しかし,情熱が高まりすぎてのめり込み過ぎて,周囲の状況を見失っ
てはいけない。
このまま突き進んで,さらに融資まで受けていいのか?
この戦術で果たしていいのか?もっとベターなやり方があるのでは
ないか?
そんなふうに,熱くリードしている自分を冷静に見るもう一人の自
分を持つことが,経営者には必要なのである。

●この熱い自分と冷静な自分を持つということは,私が常日頃から
言っている経営者のバランス感覚に通じるところがあると思う。
何事も,やりすぎては,行き過ぎては仕損じるということだ。

●ちなみに,演奏と心拍数・呼吸数は密接な関係がある。
よく息の合った演奏というが,息の合った感動を与えてくれる演奏は,
何十人という演奏者の心拍数・呼吸数が本当に同じ数を示すことが
実験で明らかになっている。
息の合った演奏というのは,本当に息が合っているのだ。
そして,それを聞いている観客も同じ呼吸をしているものだ。

●音楽とは生き物であり,呼吸をしている。その呼吸と指揮者も演
奏者も観客も一緒になった時,その演奏会場で大きな感動が生まれる
のだ。だから,生演奏の感動は,CDやレコードの感動とは違うので
ある。

●次号では,引き続き音楽と経営について考えてみたい。
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