失敗の理由その1 
「ほんとうは違うことをしたかったと思っていたので失敗しまし
た」その4

3.23号からの続き
(創刊号・3.20号・3.23号をまだ読んでいない方は創刊号から是非
ご覧くださいhttp://www.alfalfa-c.com/bn.htm)

前号では、「創業経営」と「二代目経営」の違いに触れ、二代目は
この違いを心から理解し「自己一致」しなければ優れた経営者とな
れないことを述べた。

■この「自己一致」は二代目経営者に限ったことではない。経営者
すべてにおいて必要な状態であると言える。さらに言えば万人にと
って日常生活を快適に過ごすためにも必要な状態であるとも言える
であろう。しかし、話の範囲をあまり広げると収拾がつかないので、
ここでは経営者にとって「自己一致」とは何か?を考えてみたい。
「自己一致」は、すべてのマネジメントの土台とも言えるものであ
る。これがなくては、どんな優れた戦略もマネジメント手法も机上
の空論であり、経営者の「自己一致」なくして資金や人材を活かし
成長していくことは不可能なのである。

■「自己一致」を考える前に、「自己不一致」状態とはどんな状態
なのかを考えてみたい。自己不一致とは「自分が考えている自分」
と「見られている自分」が違っている状態である。
例えば社長が「ほんとにオレは部下思いのできた社長だ」と思って
いたとする。しかし、部下は「働く人の気持ちがわからない、なん
て冷酷な社長だ」と思っていたら、考えている自分と見られている
自分が大きく違っているわけでありこれが自己不一致の状態である。
みなさんは、こういうことは心当たりないだろうか?この自己不一
致が経営をおかしくしてしまう元凶なのである。自分が考えている
自分と見られている自分が違うということは、社長が行動すればす
るほど回りの人の評価は自分が求めている評価と乖離し、最後には
その関係性が破綻するのである。これは童話の裸の王様と同じであ
り、結局その社長の回りには誰も応援してくれる人がいなくなって
しまうのである。

■経営者がある新事業を起こしたまではいいけれども失敗してしま
ったとする。よくある話である。私もそうであった。たくさん失敗
してしまった。しかしこれからが問題だ。自分が失敗した時どうす
るか?「あれは担当した人材が能力不足だった」とか「もう少し資
金があれば成功した」とか、はては「実はオレは反対だったのだ。
専務が賛成したからやってしまったんだ。」とまで言い出す人もい
る。または口ではそんなことは言わなくても、心の中ででそう思っ
ていたりする。なかなか自分が失敗したということを認めたがらな
い。これは「自分は能力がある有能な社長だ」という自分と「新事
業に失敗した社長だ」という自分が自分の中で一致していない状態
である。これが自己不一致の状態だ。こんな自己不一致の経営者に
部下がついてくるだろうか。とてもそんなことは考えられない。
また表面的に「俺は失敗を認めない!」と言っているのはいいほう
だ。やっかいなのは、表面的に口では「失敗してしまった」と言っ
ていて、心の中では決して失敗を認めていない、こんなタイプが一
番やっかいである。
要するに、例えば失敗した場合は、真に心から自分の失敗を認めな
ければ経営者にとって「自己一致」は永遠に訪れないのである。そ
してそんな「自己不一致」状態の経営者のもとでは誰も一緒に汗を
流して働こうと思わないのである。なぜなら、それはいやな自分を
受け入れない生き方であり、言い換えれば自分の都合のいい生き方
しかしない自己中心的な生き方で、他人に対してとても不誠実な生
き方だからである。そして従業員は、自分から進んでそんな社長と
は付き合いたくないのである。このように「自己不一致」状態の経
営者はだんだん孤独になり、誰も助けてくれず最後は破綻するので
ある。


■では「自己一致」とはどういう状態なのだろうか。
自己一致とは、あるがままの自分を自分がちゃんと受け入れている
状態のことを言う。「本当は部下思いの社長でいたいと思っている
けれど、ねぎらいの言葉もあまりかけないし、時々解雇したりする
自分は冷たい社長かもしれないねぇ」とか「新事業に失敗したのは、
最終的にGOサインを出した自分の責任だ」と自分のあるがままの姿
や認めたくない姿を受け入れて、率直に部下に表現することを
「自己一致」という。正直な自分で偽りがないから、なんて真摯な
社長だろうと部下は思うのである。そしてこの自己一致は社内に広
がっていくという特性がある。経営者がそういう真摯な態度でいる
と部下たちも自分のほうから、「いや、あれは自分の責任です」と
正直に話してくれるようになるのである。自己一致の輪が広がるの
だ。偽ることなく正直にコミュニケーションがとれたら、どんなに
楽しく仕事ができるだろうか。そんな会社にするにはまず経営者が
自己一致しなければ始まらない。
そんなきれいごとじゃすまないよ、騙し騙されの過酷な世界が経営
なんだよ、と言われる方もいるであろう。「部下にそんな弱みを見
せるなんてどんでもない」というご意見もあるだろう。もちろんそ
のご意見もよくわかる。しかしここで大事なのは「自己一致」と聞
いてそんなふうにすぐに反発してしまう自分」を素直に受け入れて
認めてあげるということなのだ。そして「そう思う」と正直にまわ
りに話していくことなのだ。自分はもっともっと儲けたいこと、
もっともっとえらくなりたいこと、もっともっと有名になりたいこ
と、そんな欲望が自分にあるということに気づいて、自分でそれを
認めてあげることなのだ。時と場合によってはそれを部下に正直に
話をしてもいいのである。決して欲望を持つことは悪いことではな
い。恥ずかしいことでもない。欲望は強い動機につながる。いけな
いのは、そんな自分に気がつかないこと、または気づいていても認
めたがらないこと、人には隠してしまうこと、そんな「自己不一致」
が問題なのだ。自分が気が付いていない「自分」に気づいてそんな
自分を素直に受け入れることが経営者にはまず必要なのだ。そのた
めには、苦言を呈するブレーンと自分を他人のように評価できる冷
静な「自分」が必要である。自分が「自己一致」できるかは自分の
「気づきの能力」にあると言ってもよいであろう。その能力には認
めたくないこと、見たくないこと、触れたくないことなどを進んで
受け入れることができる勇気と精神のタフさが要求される。名を成
し功を遂げた偉大なる経営者はこの勇気とタフさを持ち合わせ常に
「自己一致」していたと言ってもよい。成功する経営者となるため
にはこの認めなくない自分を許し、他人にそのことを伝えることが、
なによりもまず必要なのである。

■「自己不一致」は本人が自覚していない揚合が多い。だから本人
もなぜ事業がうまくいかないか真の原因がわからずにいろいろなビ
ジネス書を読みあさったりして方向達いの対策を立てたりしている
場合が多い。「自己不一致」はそれ自体に問題があるだけでなく気
がつきにくいというもう一つの問題もあるのである。
では何故「自己不ー致」は自分では気がつきにくいのか?それは自
分の頭の中の会話は自分の都合の良いように、自分中心に話すよう
になっているからである。先に述べたように失敗した場合でも、い
ろいろな理由を並べて自分を正当化するようになっているのである。
だから経営者は、心から信頼でき、本音で話せて、かつ自分にアド
バイスをくれる師を持たなければいけない。いやな自分を受け入れ
る自助努力をすると同時に厳しいことをズケズケ言ってくれるブレ
ーンを持たなければ常にべストな状態、すなわち「自己一致」の状
態の経営者とはなれないのである。
どんなにトレンドなビジネス手法もそれを使うのは人間であり
「自己一致」していなければその持てる能力を充分に発揮すること
はできない。なぜならば「自已一致」は事業を成功させるための人間
関係をつくる基本であり、これなくしてリーダーや経営者の資格は
ない。その意味では「自己一致」はすべてのマネジメント手法を凌
駕する経営の本質であると言えるのである。

■よく経営者は徳がなければダメだとか、人格を磨かなければいけ
ないとか聞く。私自身、何度もこの言葉を聞いたが徳を高めるとい
うことがどういうことかさっぱりわからなかった。しかし、こうや
って経営者を終了してみると、何が自分に欠けていたかがよくわか
る。徳がなかったのだ。この徳を高めるということや人格を磨くと
いうことは、常に「自己一致」している状態にしておくということ
だ。感じたままを素直に伝え、人から見られている自分を常に冷静
に見つめ、自分自身で反発があろうとも、勇気を持ってそんな自分
を受け入れ許してあげる、そんな「人」になろうと努力することが
人格を磨くことであり、徳を高めることであると思う。


■もう一つ、二代目にとって自己不一致のための悲劇を生まないた
めに理解しておかなければいけないことがある。それは「ほんとう
に自分がしたい職業」と「いま二代目経営者としている自分」が一
致しているかどうかである。この自己不一致をほうっておくと、
二代目の精神状態のバランスが崩れて鬱病になる恐れもあある。私
は破産する最後の2,3年はこの状態になり、3箇月に一度は鬱に
なっていた。このような状態は会社にとっても当然不幸である。な
にしろやりたくない人が社長をしているのでるからとんでもない話
である。この点については、ほんとうに私は従業員や関係先のみな
さんにご迷惑をお掛けしたと反省している。もしこれを読んでいる
あなたが二代目だとしたら自分のキャリア志望が自己一致している
かどうか、是非ご自身でチェックしてみてほしい。私のような悲劇を
生まないためにも是非お願いしたい。

■本号では、経営者にとって「自己一致」がどれだけ重要なことか
を述べてみた。「自己一致」とは心理学用語であり、そのためか多
少抽象論になってしまったが、ご理解いただけただろうか。「自己
一致」していない経営者がどれだけ勉強しようとも、どれだけ必死
に働こうともいつか破綻する。これが私の結論である。次号では創
刊号から続いたテーマの最後として二代目にとって、「事業継承」
したほうがいいのか「事業転換」したほうがいいのかについて考え
てみたい。
賢い読者のみなさんはもうお気づきと思うが、二代目について考え
ていても、それは創業者であろうが三代目、四代目であろうがすべ
ての経営者に共通している考え方であり、感じていただける部分は
多いのではないか、と思っている。引き続き応援をお願いしたい。

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