■「俯瞰能力」

●中小企業診断士の勉強を決意したのは,1999年の冬だった。
もう次の年の1月には会社の営業を停止すると覚悟を決めていた時期だった。
会社をたたんで,次に事業をするにもまた勤め人になるにしても,すねに
大きな傷を負ったままではいけないと思い,何か資格をとろうと決めた。
そのころから漠然とはしているが,コンサルタントとして社長さんがたのお役
に立てればとも思っていた。

●中小企業診断士の資格をもつ友人に相談をした。
彼は言った。
「この資格は,経営が俯瞰できないといつまでも合格できない。君は経営者を
ずっとやってきて経営全般なんでもわかるから大丈夫だ」
その時は意味がわからなかった。しかし,試験を受けるまじかになって,やっ
と,「このことか」とわかってきた。

●破産の代理人をお願いした弁護士の先生にも聞いたことがある。
ベテランの先生で,人柄も素晴らしいの一言に尽きる先生だ。
「先生,司法試験に受かるコツはあるのでしょうか?」
しばし,先生は沈黙して言った。
「法律には幹がある。その幹が見極められないといつまでも合格はできない」
幹か。。。。
中小企業診断士の勉強に明け暮れていた僕にとっては,ピンとこない話ではあ
ったが,幹をなんとか見つけようとその日から心掛けた。

●司法試験は勉強をしたことがないのでわからないが,中小企業診断士の試験
を受けてわかったことは,友人は弁護士の先生が言ったことと同じだった。
「俯瞰してから部分を見ないと見当違いの答えを出してしまう」
全体をまず押さえる能力,それが問われているということだった。
今,勉強をしている皆さんも,これを心掛けるだけでおそらく180度勉強の
仕方,知識の吸収の方法が変わると思う。

●俯瞰能力は,当然現場で踏ん張っている経営者諸氏にも求められる能力だ。
しかし,全体を見ず考えず,細事抹消に拘っている方々がとても多い。
もっと高い視点で自社を見てみることだ。
と,言葉では簡単であるが,実行は難しい。

●私が俯瞰する力を身につけたのは,経営経験からではない。
昨年からくどくどと書いてしまった指揮者経験からなのである。
指揮者は,例えば15分の楽曲であれば,その楽曲のスコア(総譜)をすべて
頭に叩き込まなくてはいけない。
上はフルート・ピッコロ,下はコントラバスまでずらっと縦に楽器が並び,そ
れらの音符がすべて書かれている楽譜だ。
指揮者の一番の仕事はこのスコアの読み込みであり,何をするかと言えば,1
5分の楽曲全体を見渡して,ここが一番盛り上がるところ,ここが一番小さい
音のところ,と細部を詰めていく作業だ。
ここで大切なのは,全体を見ながら部分部分の盛り上がりや音量を決めないと
,聴衆がバラバラの演奏,というイメージを持ってしまい感動してくれないこ
とだ。
指揮者はなによりも全体を俯瞰する能力が問われるのである。
だから,長い楽曲になればなるほど,それだけ力量がある指揮者でないと聴衆
を満足させることができない。

●私は高校時代からの,この指揮者という経験からとにかくまずは全体像を見
るように心掛けるという習慣が身についた。
経営者になっても,自然とこの姿勢は保てた。なぜなら,「閾値」に達してい
たからだ。
(「閾値」については,後日触れてみたい)
この俯瞰する能力は,実は何をやるにも必要な能力である。
営業マンの営業スキルにしろ,財務担当者でも,はたまた習い事やスポーツで
も,全体を見極めるということが技術を身につけ成功するために求められる。

●自分の状態を知り,自分のポジションを知り,自分の目標を知る。
それが「俯瞰」するということだ。
経営者に求められる必須の能力である。
2003年も始まったばかり。まだ俯瞰する余裕はあるはずだ。これが,3月
4月ともなると,人間,どうしても流されがちとなる。
今が,俯瞰するいい機会かもしれない。
事始はとっくに過ぎてしまったが,是非あなたの会社や事業を「俯瞰」するこ
とにチャレンジされてはいかがだろうか。
トップへ
トップへ
戻る
戻る