失敗の理由
Γリース契約で失敗しました」その2


■先週はリース契約の検収で失敗してしまったことをお話した。
今回はそのリース契約でもう一つアホな失敗をしてしまったことを
お話したい。

■小売店では、よく内装をリースにかけることがある。理由は当然
オフバランス化できるからである。バブルの頃は内装一式丸ごとリ
ースにかけたりが可能であった。本当はリースは可動できるものし
か契約することができない。店舗であれば什器やテーブルであり、
床壁天井の部材はもちろん工事費などもだめだ。しかしバブルの頃
はイケイケドンドンでそんなのも平気であった。その後いろいろと
問題となり、税務署の指導でという紋切り型の断り文句でリースを
かけられなくなってしまった。まあ、リースの原則から言えば当然
のことだ。

■しかし、そんな厳しくなってきたご時世でも比較的可動、不可動
の判断が甘いリース会社があった。私としては出店やリニューアル
の際、一時金として多額の出金が抑制できるので、これ幸いと契約
をすることを決断した。税務上の問題が多少あるとはいえ、これく
らいの判断は中小企業の社長としてよくあることではないだろうか。
問題は契約したそのリース会社の本質について情報不足だったとい
うことだ。リース契約はこちらが多くのリスクを背負うため慎重に
判断しなければいけないということを前号でも書いたように、私自
身が学習しているはずであったが、それが身についていなくて結局
甘い判断をしてしまったのである。

■経営者にとって高い学習能力はなにを置いてもまず必要だ。これ
がなければ同じ過ちを何度もして最後は倒産させてしまう。私も決
して高い学習能力を持っていなかった。だから同じとまではいかな
くても同じような過ちを何度もしてしまった。私の場合なぜ同じ過
ちをしてしまうかというと、それはちょっと成功すると舞い上がっ
てしまう性格にあると思う。そして慢心が生まれる。このリース契
約の頃もそうであった。ちょうど製造小売が順調にいき、同業者が
売上減で大変苦しんでいる中、絶好調でとばしていた。やっと今ま
での努力が実ってきたのだという充実感とやればできるじゃないか
という慢心が生まれてきてしまったのである。しかし、この感覚は
成功している社長なら誰でも一度は味わっているものである。問題
はそんな自分の状態について自覚しているか、無自覚であるかの違
いである。舞い上がって自分が見えなくなってしまっている状態で
は周りがいくら忠告してもいうことをなかなか聞かないものだ。し
かし、そんな自分を冷静に見、ブレーキをかけるのは、実は他なら
ぬ自分でしかない。私の場合は舞い上がっている自分に無自覚であ
り、自分の状態や感情を冷静に捉えることができていなかった。

こんなことに気づいたのは「カウンセリング」のスキルを学んでか
らだ。もう少し早く「自己一致」の概念に触れていればもっと良い
経営が実現できたと確信している。そのような意味でも経営者が
カウンセリングや心理学を学ぶことはたいへん意義深い。是非一歩
入ってみることをお勧めする。

■話が逸れたが、そんな自分の失敗を忘れて舞い上がっていた私は
安易にリース会社と契約をしてしまった。
ほんとうは、もっとそのリース会社が自社にとって適当なのか、慎
重に吟味すべきであった。
そして、私はもう一つ決定的なミスを犯してしまった。
それは、公正証書を差し入れてしまったことだった・・・・

■今もってどうして公正証書を差し入れてしまったか自分では不明
なのである。公正証書の怖さはそれまでに他の社長からも、また経
営のお師匠さん達からも耳にタコができるくらい聞かされていた。
しかし、このリース契約では返済不能になった場合に本差し押さえ
ができる公正証書を差し入れてしまったのである。
今回、会社が営業停止となり支払い不能となったが、この公正証書を
差し入れていたために、売上金が本差しにあい破産申請となったのだ
った。このあたりはまだデリケートな部分なので詳細を書けなく申し
訳ないが、この公正証書がなければもっと違う最後の処理の方法にな
っていたと思う。

■ご存知のとおり、公正証書があれば債権者は仮差し押さえではなく
本差し押さえができる。これは即執行官が来て財産を問答無用で取っ
ていってしまうことである。法的にそのようになっているので文句は
言えない。それを了解して公正証書に社長が押印したと法的にみなさ
れてしまう。その意味でとてもとても怖いものなのだ。これに対して
仮差し押さえは実際に財産を差し押さえるには訴訟を起こさなければ
ならず、債権者も手間や訴訟費用もかかるので実際に本差しまでいく
ことは少ない。本差しと仮差しは債務者にとって大きな違いがあるの
である。
また、本差しで財産が差し押さえられても破産すれば、法的には取り
返して配当原資に入れることが可能であるが、現実的にはそのような
ことは行われない。一度本差しされてしまえば取り返すことは容易で
はないのである。

■このように力のある本差しを実行させてしまう公正証書は経営者とし
ては絶対に差し入れてはならず、どんなことを言われても押印しては
いけない。相手は「これは万が一の時のためですから。まあ社長さん
の場合はそんなことは心配していないので、形式上のためだけです」
となんとか言ってくるだろう。しか〜し、どんな契約の時でも絶対に
してはいけないのである。絶対にだ!

しかし、経営者自身が自分を見失っていると私のような間違えを起こ
してしまう。予防策としてはなんでも事前に気軽に相談できる自分の
ブレーンを持つことと、ブレーンのアドバイスをいつでも受け入れる
ことができる精神状態に経営者自身が保つことが必要である。耳にタ
コができるくらい聞かされていた私でさえ過ちを犯してしまった。
とにかくお気をつけいただきたい。
絶対に公正証書に押印しないこと・・・・

■リースに関しては余談であるが、次のような体験もした。
業績が好調な頃、社長が乗る車をリースで購入しようということにな
った。理由はリースのメリットそのままである。それで5年経過して
リースアップしたときに、今度は違う車を資産として購入しようとい
うことになった。
しかし、その時ちょっとした違和感が私にはあった。それはは車のリー
スに慣れていなかったので、リースアップして車をリース会社に返却
する時に、なんか損した気分になったことである。ローンであれば支
払いが5年で終了すれば、当然車はこちらのものになり、新たに購入
する場合の下取りとして入れることが可能である。しかし、リースは
リースアップしてもこちらのものにはならず、リース会社はその車を
引き取ってしまう。まあリースはそのような契約だと言われればそう
なのであるが、ローンと同じように毎月支払っていたにもかかわらず
車を引き取られてしまった時はとても損したようで違和感があった。
これはあくまで余談で、リースでは当たり前であることであるし、営
業車ををリースされている方は何を言っているんだ?と思われるだろ
う。この私の違和感の教訓としては、リース後も残価がかなりある
ような物件でかつ中古市場も充実している物件については、リースを
利用するかどうかは、リースアップ時に後悔しないためにも、ちょっ
とだけ検討する時間を設けてもいいかもしれない。

■リースはとても便利なようで、それと引き換えにいろいろな犠牲も
払ってしまう場合があるので、是非いろいろな角度で検討されたい。
リースの利用が良いか悪いかは一概には言えず個々の企業事情によっ
て判断基準が異なる。しかし、利用するしないに関わらず、最悪のシ
ナリオの場合どうなるのかぐらいの知識は経営者としては当然持って
いなければいけないのである。

■次号からは、銀行との付き合い方について、私の失敗談から「ツボ」
を押さえていきたいと思う。
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